取りあえず、

隣の70代の老人が死んだらしい。


朝部屋から出る時に生ゴミが腐ったような匂いがした。

なんかきついとは思った。


米を三合炊いて、

ラップに包んで冷凍保存をしている最中に、

インターホンが鳴った。

面倒臭いな、新聞屋か宗教かとか思いながら開けて見ると、


「すいません。」


警察だった。


「207号室の老人についてお話を伺いたいんですが。」


後になって気付いた事だが、

遠藤が住んでるのが207号室だ。

恐らく間違えたんだろう。


「あの、ちょっとやってる事があるんでどうぞ。」


と遠藤は女性警察官を中へと入れた。


「どうしたんですか?」

「あのー、207号室に住んでいる70代の老人について知りませんか?」


孤独死


その言葉がぱっと頭に浮かんだ。


「人死にですか?」


何もオブラートに包まないで聞いた。


「恐らく。」


警察官も包まないで返してきた。


「そうですか。」


カチャカチャとしゃもじをジャーに突っ込んで白米を取り出す。


「何か知りませんか?」


その後、電子ジャーからしゃもじで米をサランラップの上に乗っけて包みつつ、

知る限りの情報を警察官に言った。

途中で包み終わって空になったジャーを見つめながら話した。


「まだ、部屋の中には入ってないんですか?」

「はい。」


でも恐らく死んでるんだな。

そう思った。


「すいません、お役に立てませんで。」

「いえ、ありがとうございました。

 もしかしたら後日ご協力をしていただくかも知れませんが。」

「はい、その時はよろしくお願いします。」


しゃもじを持ったまま、

警察官を見送った。


「そうか。」


何がそうかなのか知らないが、

一人ごちた。


しゃもじを空のジャーの中に突っ込んだ。

ジャーの中は残ったデンプン質でカピカピになっていた。


遠藤も、

孤独死とかするのかな。

でも、大学院の奴らや後輩がいるから大丈夫か。


不安は、無かった。

人間のつながりがはっきり見えた。


孤独死は嫌だ。